2015年6月25日木曜日

IBM事件控訴審判決(東高判平成27年3月25日)を読んでみて…(その1)



1. 6月も残すところあと数日になってしまいました。
 今年
4月からやらせていただいている法学研究科の租税法ゼミが本格的に始まったり、愛知県弁護士会国際委員会が主催する外国法連続勉強会の今月の講師(「国際税務入門」)を引き受けたりして、6月は何かと気忙しく、ブログの更新が全くできませんでした(言い訳がましいですね…反省です…)。
 その分、今日は、ちょっと重たい話題をとりあげてみようと思います…。
 IBM事件控訴審判決についてです。
 IBM事件については、控訴審判決がでた際、このブログで、少々くどくどと、第一審判決(東地判平成2659日)についてとりあげていましたが(控訴審判決を入手できていなかったので…)、今日は、控訴審判決東高判平成27325自体について、ざっくりとふれてみたいと思います(それでも、すごい文量になっちゃうので、2回に分けます…)。

 
2. IBM事件控訴審判決東高判平成27325)を読んでみて…(その1)
 
(1) 事案の概要および第一審判決については、以前のブログをご参照ください(↓)
   http://www.hisaya-avenue.blogspot.jp/2015/04/27325.html

(2) 控訴審における主たる争点とそれに対する控訴審結論について

 控訴審での主たる争点は、第一審と同様で、以下の通りです(第一審の争点のうち、「争点1」)。

 本件各譲渡による有価証券の譲渡に係る譲渡損失額が本件各譲渡事業年度においてX社の所得の金額の計算上損金の額に入されて欠損金額生じたことによる法人税の負担の減少が、法人税法1321項にいう「不当」なものと評価することができるか否か。

 この点につき、控訴審は、第一審に引き続き、同条項の「不当」と評価することはできないとして、処分行政庁がX社(被控訴人&原審原告)に対してした処分は違法で取消しを免れないと判示し、国の控訴棄却しました。

 
(3) 控訴審における当事者の主張について

 ところで、控訴審において、国(控訴人&原審被告)は、結構大胆に、第一審の主張を撤回しています
 すなわち、国は、第一審において、法人税法1321項にいう「不当」性の評価根拠事実として、

・X社を中間持株会社としたことに正当な理由ないし事業目的あったとはいい難いこと

・本件一連の行為(米国WT社によるX社の持分取得、本件増資、本件融資、本件株式購入及び本件各譲渡)を構成する本件融資は、独立した当事者間の通常の取引とは異なるものであること

・本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められること

を主張していましたが、第二点をのぞいてこれらを撤回しています

そして、国は、以下のように主張しました。

①法人税法1321項の「不当」性の判断基準について

 法人税法1321文理解釈及び改正経緯からすれば、同項の適用に当たり、同族会社に租税回避の意図があること要件ではなく、同項の「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」か否かは、同族会社の行為または計算が、経済的、実質的見地において純粋経済人の行為又は計算として不合理、不自然なもの経済的合理性を欠くもの)と認められるかどうかによって判断すべきである、そして、独立当事者間の通常の取引と異なり、同族会社の行為または計算によって益金が減少したり損金が増加する結果となる場合には、特段の事情がない限り、経済的合理性を欠くのだ!等と主張しました。
 後半部分は、まるで、同項の不当性の主張立証責任を、一部、国から納税者に転換してほしいというような願望が透けて見えますね。
 判断基準自体は、経済的合理性基準説のようにみえますが、「同族会社に租税回避の意図があること要件ではなく」という部分は、第一審において、国が、本件各譲渡を含む本件一連の行為に租税回避の意図が認められることの主張立証に失敗したことを受けてのものでしょう。また、国が勝訴したヤフー事件の第一審判決(東京地判平成26318日)等を勘案してのものとも思われます(ヤフー事件は、法人税法132条ではなく、同法132条の2に係る事件ですし、同事件第一審は、両条の「不当」性について同義に解さなければならない理由はないとしていますが、第一審原告の「私的経済取引として異常又は変則的で,かつ,租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合に限られる」という主張を斥け、「『租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる』か否かという基準は、それのみを唯一の判断基準とすることは適切ではないと言わざるを得ない」等と判示しています…)。

 これに対し、X社は補助的反論として、同条項にいう「不当」と判断されるのは、当該行為又は計算が、異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合であることを要する等と主張しました。

本件一連の行為(米国WT社によるX社の持分取得、本件増資、本件融資、本件株式購入及び本件各譲渡)が、独立当事者間の通常の取引と異なり、経済的合理性を欠くこと

 国は、①のように同条項の「不当」性の判断基準について主張した上で、

ア.本件一連の行為は、IBMグループが日本国内において負担する源泉所得税額圧縮しその利益を米国IBM還元すること(本件税額圧縮)の実現のために一体的に行ったものであるところ、

イ.本件一連の行為は、独立当事者間の通常の取引とは明らかに異なるもので経済的合理性を欠くものであり(および、本件一連の行為を個別的にみても、すなわち、本件融資、本件増資、本件株式購入も、独立当事者間の通常の取引とは明らかに異なるもので経済的合理性を欠き)

ウ.本件各譲渡は独立当事者間の通常の取引と異なるものであり、経済的合理性を欠き

エ.本件一連の行為により、X社は(本件税額圧縮を実現しただけでなく)法人税の負担軽減させており、本件一連の行為を容認することは租税負担の公平維持という法人税法1321項の趣旨に反する

等と主張しました。
 このような国の主張は、米国IBMが日本再編プロジェクトの実行を承認した当時(遅くとも平成1311月)に、日本の税制改正や本件各譲渡による法人税の負担減少を想定していたとは認めがたい一方で、本件税額圧縮は意図していたと思量されることを勘案してのことでしょう。その上で、本件各譲渡まで含めて一連の行為であり、これを構成する個々の行為を一体として行ったからこそ、本件税額圧縮を実現しただけでなく、本件各譲渡による法人税の負担が減少したのだと主張しています。ちょっと論理が弱い気もしますが…。

 
(4) 控訴審の判断 ~①法人税法1321項の「不当」性の意義について~

 控訴審判決は、まず、法人税法1321項の「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」か否かについては、「専ら経済的、実質的見地において当該行為又は計算が純粋経済人として不合理、不自然なものと認められるか否かという客観的、合理的基準に従って判断すべきものと解される」とした上で(経済的合理性基準説)、X社の補助的反論を斥け、文理解釈や改正の経緯等から、「すなわち、経済的合理性を欠く場合には、独立かつ対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引独立当事者間の通常の取引)と異なっている場合を含む」と判示しました。
 ここについては、「すなわち」以下について、X社よりも国の主張にそっています。控訴審は、X社が補助的反論において主張していた「当該行為又は計算が、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる」という要件について、その存否の判断は、極めて複雑で決め手に乏しくX社の主張を採用すると、法人税法1321項の権限を行使することが事実上困難になってしまうとも、述べています。

 
(5) 今日は、ここまでにしておきます。
明日、国の②の主張(本件一連行為が、独立当事者間の通常の取引と異なり、経済的合理性を欠くこと)に対する控訴審の判断から続けます。